2012年2月3日金曜日

幸之助翁は詩人「道をひらく」 書評122


PHP研究所、1968年刊。

経営者の座右の書である、と言うのは今更であろう。国文専攻だった私としては、幸之助翁の文章について感想を。本書は「PHP」誌の裏表紙に連載された単文エッセーの中から、121篇を選んだモノと前文にある。原記事の性格上、まず字数に制約があり各篇500字までと数えた。この短いエッセーで例えば「志を立てよう」という一篇を取り上げる。

最初の段落はこうだ。
「志を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい。」
ごく短い文が続いている。「立てよう」が脚韻として踏まれている。この二つの技巧により、メッセージが畳みかけられて読者に到達する。注意を喚起し、興味を覚えさせる。そこに最後にその理由や便益が手短に述べられて、読者のアクションを啓発する。とても力強いアピールとなっているわけだ。

最後の段落はこうだ。
「志を立てよう。自分のためにも、他人のためにも、そしてお互いの国、日本のためにも。」
最初の段落に対して、ここでの文頭「志を立てよう」が呼応している。文章構成として一貫していて見事だ。そしてこの段落でも「ためにも」が3回繰り返されて、畳かけのリズムが形成されている。読者に対しての呼びかけが強く残った形でこのエッセー1篇を閉じている。

見事な文才であり、内容、そして発言者と相まって恐るべき影響力を発揮している文章を紡ぎ出している。

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