2016年5月31日火曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(9)

華人型経営に見られる家族型経営が織り成す別の性格は、「家族になれなければドライな関係」というものだ。そのため、東南アジアでの華人型企業での年間離職率は30%を超えることも珍しくない。3年たつと幹部以外皆違う人という世界だ。

ゴウ氏にとって、シャープはまだ「家族として扱えない」段階だ。だから高橋氏も躊躇なく更迭された。この先、シャープへの出資が完了して同社が名実ともに鴻海の手中となったら、シャープはどのように発展、あるいは切り刻まれるのだろうか。

 三菱自を傘下に入れた日産のゴーン氏、念願のシャープを手中にしようとしている鴻海のゴウ氏。両社それぞれ新しいオーナーシップのもと、どのような変容や発展を遂げていくのだろうか。しばらくは目が離せない。

(この項 終わり)

2016年5月30日月曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(8)

華人型経営ではオーナー会長は独裁者


 私は香港に上場している大手企業の日本法人社長も数年勤め、華人企業をも内部から観察、体験している。華人企業のマネジメントスタイルは、アメリカヨーロッパ型、そして日本型の経営とも大きく異なる。いってみれば「どんなに社員が多くなっても家族経営」というものだ。

 企業内家長であるオーナー会長の意向が絶対であって、組織の細部までオーナーの意向が及ぶ。鴻海のように年商15兆円規模の大企業となると、もちろん同族だけで経営するわけにはいかない。その代わり、華人企業のトップ幹部になるには、オーナーと家族同様の価値観や忠誠心を共有する必要がある。いわば経営幹部は擬似家族なのだ。ゴウ氏の弟、郭台強氏もフォックスリンクの董事長として周辺企業を経営している。

(この項 続く)

2016年5月29日日曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(7)

社員をリストラしない、としていた点も、買収調印の時点では「40代以下は残ってもらう」に後退し、それ以降は「追加で2000人の人員削減が必要だ」とシャープに強く迫っているという。

 私が興味を持ったのは、4月中旬にゴウ会長からシャープに「関帝像」が送られたということだ。これは三国志に出てくる英雄のひとりで関羽のことだが、後世の人間に神格化され、関帝(関聖帝君・関帝聖君)という神とされた。

 関帝は特に華僑(中国本土から外に出て活躍の場を求めた初代、2代目以降の現地定住者は華人と呼ばれて区別される)から守り神として信仰を受けている。日本でも横浜中華街など、関帝廟が祀られているところは少なくない。

 ゴウ氏は両親が中国本土から台湾に渡った「華僑」、本人は台湾生まれで「華人」ということになる。極貧家庭育ちの中卒から15兆円規模の大企業グループ総帥となったゴウ氏は、典型的な華僑・華人実業家だ。それゆえ華人実業家であるゴウ氏が関帝像を送ったということは、企業文化的に大きな意味がある。「自分のテリトリー」あるいは「帝国への併合」宣言であり、華人企業化の開始が告げられた。

(この項 続く)

2016年5月28日土曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(6)

まず、距離感と節度がないのがゴウ氏のスタイルだ。そもそも買収契約が締結されたのは4月2日で、出資期限とされたのは10月5日であり、出資はまだ実施されていない。鴻海はまだシャープの株主ではない。

 それにもかかわらずゴウ氏はもちろん、鴻海側のチームはシャープの工場や事業所に遠慮なく立ち入り、在庫の資料などを精査している。台湾、中国のホンハイ事業所ではシャープ製品の即売会を行うなど、「もうすっかり子会社」という扱いだ。

シャープに対するゴウ会長の取り組みは、よくいえば朝令暮改、わるく表現すれば傲岸不遜とも形容できる。出資予定額も買収契約締結後に1000億円も減額するなど傍若無人、やりたい放題である。

 買収調印前には、現経営陣の温存とシャープ従業員をリストラしないなどとしていたが、5月12日に至り、シャープは次期社長に鴻海の戴正呉副総裁が就任すると表明した。高橋興三社長が実質更迭されることについて快哉を覚えるシャープ社員も多いことだろうが、「鴻海に付けば安泰だ」と高橋氏が思っていたとしたら当てが外れたことだろう。

(この項 続く)

2016年5月27日金曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(5)

私がフィリップス日本法人社長時代に観察したのは、ヨーロッパ人は植民地あるいは出先企業からの利益吸い上げ、すなわち収奪が実にうまく、洗練されている、ということだ。外見上では、当方は丁寧に扱われ励まされる。がんばれ、しっかり働け、というわけだ。とはいえ、自身が実際に乗り出してくれるわけではなく、手を汚そうとはしない。自分が飼っている豚を一生懸命太らせようとするのだ。

 賢いやり方であり、ゴーン氏は何も非難されることはない。

鴻海はシャープを自らの帝国に組み込む


 親会社出現ということで話題となっているもうひとつの大企業シャープだ。こちらは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に買収される。鴻海の総帥、郭台銘(テリー・ゴウ)会長のシャープへの対し方は、ゴーン氏の三菱自へのそれとは大きく異なっている。

(この項 続く)

2016年5月26日木曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(4)

相手の自主性を重んじ、自助努力を促す。このようなアプローチを私は「植民地経営」と呼ぶ。私がオランダのフィリップスの日本法人社長を務めていたときに痛感した、ヨーロッパ型の経営の特徴だ。

 植民地経営では、傘下に収めた相手方企業に一定の統治を認める、あるいは推奨する。自助努力を親会社はできるだけ助力してあげるという位置にとどまる。親会社を「ヨーロッパの本国」、相手方企業を「植民地」と読み替えれば、ヨーロッパ列強が展開してきた植民地経営の手法となる。

 ゴーン社長はレバノン系だが、予備校から仏パリで学びエリート養成大学として知られるエコール・ポリテクニークからさらにパリ国立高等鉱業学校で工学博士号を取得している。フランスの名門企業ミシュランでキャリアをスタートするなど、ビジネス文化的にはヨーロッパ人のそれと考えられる。しかもクラス社会であるヨーロッパの一番上のエリート層に組み入れられた存在だ。

(この項 続く)

2016年5月25日水曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(3)

自主性を重んじるポーズ


 ゴーン社長はさらに5月16日に報道数社とのインタビューで、三菱自の再生に向けた課題を「信頼回復が第一だ。三菱自が自ら取り組むしかない」とし、「日産は求められれば支援を惜しまない」と協力の意向を示したとされる。

 さらに三菱自のブランドも残し、経営陣も日産からは送り込まないとした。三菱自の相川哲郎社長が5月17日に至り辞任の意向を発表したが、それは通常の引責辞任で日産側の意向ではないとされ、社長職は益子氏が兼任する。開発部門の責任者だけは「三菱自の要請により」(ゴーン氏)送り込む。

これら一連の取り組みを見ると、日産は傘下に収めた三菱自を直接経営するのではなく、少し距離を置いていくやり方を選択している。そもそも出資比率も34%と、過半数までに踏み込まなかった。

(この項 続く)

2016年5月24日火曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(2)

「燃費の不正問題が発覚した段階で、こういうことになると予想はしていない。当然、状況把握を待った。そして、益子氏との対話のなかで、今回の資本提携という結論に至った。これまで、互いに信頼を築いてきたなかで、いつかの段階で資本提携を行う可能性は話に上っていたが、今回の事象で加速した感はある」

 5月の大型連休中に益子氏と会談を行って、一気に走り出したということだ。やり手で断固とした意思決定をするゴーン氏のことなので、その通りなのだろう。

 三菱自の株価も、燃費偽装問題が発覚して急落していた。ゴーン氏としては、問題発覚前より1500億円ほども割安に同社を取得できる状況となっていた。

(この項 続く)

2016年5月23日月曜日

鴻海、早くもシャープを子会社扱いでやりたい放題…日産は三菱自を「植民地化」(1)

テリー・コウ会長と高橋社長
5月11日掲載の本連載前回記事『「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先』で私は、三菱自動車を強く批判し、「自浄力がなく、責任を取って廃業せよ、金曜会など他の三菱グループ企業も支援すべきでない」と主張した。

 その後、事態は急転直下、カルロス・ゴーン社長兼CEO率いる日産自動車が2000億円強を出資し、三菱自株式の34%を握り筆頭株主となり、実質的に傘下に収めることが発表された。

ゴーン氏の野望としたたかなアプローチ


 発表会見はゴーン氏と益子修三菱自会長により、5月12日に行われた。三菱自の燃費不正が発覚したのが4月20日のことだったから、わずか3週間後の電撃的なディールである。あまりに短期間の展開に、燃費不正問題そのものが「三菱自を傘下に収めるための、両者の事前合意があった出来レースではないか」との指摘も出ているが、ゴーン氏は同日の会見でこう否定している。

(この項 続く)

2016年5月17日火曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(7)

不買運動と株主訴訟で追い詰めるべき


 重大なコンプライアンス違反を犯した会社は、相応のペナルティを受けてきた。雪印乳業やライブドア、船場吉兆は市場から退出したし、赤福や石屋製菓(「白い恋人」の販売元)はしばらくの間販売停止に追い込まれた。

 死者まで出したリコール隠しをしていた三菱自には、今度こそ廃業してもらうべきだと私は思う。それにはどうしたらいいのか。
 ひとつは、単純に同社製品への不買などを求める消費者運動の高まりに期待したい。

しかし、「三菱重工三菱自動車の株を持っていますからね。株主としては支援はしなきゃイカン。それは当然のことでしょう」(同)と、相川氏は三菱グループとして三菱自動車を擁護する姿勢を示した。このようなグループとしての反社会的な行為を阻止するためにはどうしたらよいか。

 私が三菱重工の株主だったら、同社が三菱自の救済措置を取ったら取締役に対しての株主訴訟を考える。つまり、反社会的集団への支援ということで取締役の善管注意義務違反を問う。

 また、セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文前会長を辞任に追いやったアクティビスト株主の出現にも期待したい。三菱重工に書簡を送り、反社会的な投資や援助行動を取ることは公企業の行動倫理に反し、最終的に株主に対する企業価値を毀損することを指摘してけん制してもらいたい。あるいは、議決権行使助言会社が株主総会を前にして、会社を特定して、あるいは一般論として反社会的な企業行動を取らないよう見解を出すなどだ。

 私たちは資本主義社会に生きている。それは優勝劣敗の社会だ。しかし、「儲かるのなら何をしてもよい」ということでは決してない。

(この項 終わり)

2016年5月16日月曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(6)

反社会的な存在ということは、暴力団と同じだというとわかりやすい。そして、暴力団は駆逐されるべきだ。

相川賢太郎氏は「会社(三菱自動車)が潰れたら3万人の従業員が路頭に迷うことになるんですから、そんなに簡単に潰せるもんじゃないんです」(同)ともコメントしているが、暴力団を廃業させる場合でも組員の就業対策が必要となる。同じことではないか。

「彼らを咎めちゃいけない。三菱自動車のことを一生懸命考えて、過ちを犯したんだから。(略)武士の情け、そういう気持ちも大事ですよ」(同)とも語っているが、そのために2度も死亡事故を起こし、今回も社会的影響は計り知れない。

相川賢太郎氏の見解は、外部に迷惑をかけても仕方がないということだ。三菱グループ以外の外部というのは、すなわち私たち市民社会である。それに迷惑をかけても渡世のためには仕方がないというのは、反社会勢力の考え方だ。三菱グループは三菱自動車の件に関して反社会勢力となることを同氏は自認したことになる。

(この項 続く)

2016年5月15日日曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(5)

昨年から今年にかけて、消費者や社会を裏切るような意図的なビジネス事件を思い浮かべてみる。

・独フォルクスワーゲンのディーゼル偽装
・東洋ゴムの免震装置ゴム不正問題
・東芝の利益操作 
・三菱自の燃費データ偽装


 いずれも大企業、つまり大組織である。それぞれの事象を引き起こした経営者あるいは担当者は、社外つまり社会や消費者の損益よりも、自分が属する組織内での損得や価値観、行動規範を優先させ、その結果として反社会的な企業内行動を取ってしまったという構造で理解できる。

相川哲郎社長の謝罪会見を見ていて違和感を覚えたのは、軽の供給先の日産のことを「日産様」と「様」付けで何度も丁寧に格上呼称していたことだ。「この会社は対消費者目線がないんだな」と感じた。今回の問題で一番被害を受けているのはユーザーであり、社会である。それが直接の取引先のことしかとりあえず念頭にないのだ。社会的視点が欠落している大企業が反社会的なことをしでかしてしまっている。

(この項 続く)

2016年5月14日土曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(4)

しかし、それに続いて「従業員は一生懸命やっていますから。会社のためと思ったのが裏目に出たわけですよ」(同)と見解を述べているのは看過しがたい。

B to Cの製造業会社が、消費者の安全より会社のため、あるいは組織適応を優先して起こしてきたのが一連の三菱自の不正事件ではなかったか。

「買うほうもね、あんなもの(公表燃費)を頼りに買ってるんじゃないわけ」(同)と相川氏は放言しているが、「だからいいんだ」という価値観の袋小路の行き先が、2度にわたる死亡事故だったのではないか。

大企業を崖っぷちに追いやる、いびつなムラ社会論理


 実は相川氏は、三菱自の相川哲郎現社長の実父である。つまり、2人は三菱グループというムラ社会どころか家族なので、応援発言に熱が入ってしまうのも理解できなくはない。しかし、グループの実力者のこの発言は「贔屓の引き倒し」のような向きを否めない。

(この項 続く)

2016年5月13日金曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(3)

三菱自を延命させてきた三菱グループの総意


 過去の2回にわたるリコール隠しで経営危機に陥った三菱自動車を救ってきたのは三菱グループだ。三菱グループ主要29社は「金曜会」という親睦会を形成している。グループの御三家と呼ばれるのが三菱商事三菱重工業、そして三菱東京UFJ銀行である。この御三家が資金的にも人材的にも支えることで三菱自は過去の危機を乗り越えてこられた。

 今回のいわば「三度目の大罪」に対しても、「三菱グループの天皇」と呼ばれる相川賢太郎氏(三菱重工相談役)は「絶対に潰しちゃイカンですよ。(略)皆で助け合ってやっていこうというのが、三菱グループ29社の精神ですから」(「週刊新潮」<新潮社/5月12日号>より)と語っている。

(この項 続く)

2016年5月12日木曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先(2)

石井啓一国土交通大臣は4月22日の会見で、「日本ブランドに対する信頼・信用を失墜させ、ユーザーに対しても多大な迷惑を掛けていることについて猛省を促したい」と三菱自を厳しく批判した。25年にもわたって燃費データ不正を続けていた同社は、経営トップが関知していたかは別にして、「不正に対しての組織的確信犯」というしかない。

 同社は過去にも23年以上にわたって不具合情報を多数も隠蔽し(2000年発覚)、関連して2件の死亡事故が起きている(02年)。法人としての同社と子会社の三菱ふそう、そして三菱自の副社長以下経営幹部複数名が刑事有罪となった。

 安全にかかわる事項について意図的に隠蔽して死者を出した。司法的にも有罪が確定した。つまり、三菱自は犯罪を重ねてきた会社であり、それがまた性懲りもなく反社会的な行為をしでかしたというのが今回の構造である。こんな会社の存続を許してはならない。

(この項 続く)

2016年5月11日水曜日

「反社会的勢力」三菱自、隠蔽と犯罪を重ね死者続出…消費者の安全より組織的利益優先 (1)

燃費試験の不正行為について会見する
三菱自動車工業・相川哲郎社長
燃費データ不正に揺れる三菱自動車工業の4月の軽自動車販売は、前年同月比44.9%減と大きく落ち込んだ(全国軽自動車協会連合会が5月2日に発表)。

4月20日に不正を発表して以降、問題車種の販売を停止しており、5月はさらに落ち込む見通しだ。

 同社は水島製作所(岡山県倉敷市)で軽の生産を止め、全工場従業員約3600人のうち約1300人が一時帰休させられている。影響は三菱自だけでなく取引先にも広がり、同社から供給を受けていた日産自動車の4月軽自動車販売が昨年対比51.2%のマイナスとなった。

懲りない会社の自業自得


(この項 続く)

2016年5月10日火曜日

『間違いだらけのビジネス戦略』が アマゾンで

拙著『間違いだらけのビジネス戦略』(クロスメディア・パブリッシング)が、アマゾンでプッシュされている。

キンドル版が767円と、特別セール中。是非この機会に。

2016年5月9日月曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(7)

それにしてもこんな大企業を率いていく組織形態というのは一筋縄ではいかないもので、その証拠に前述のマトリックス構造に加えて、トヨタは技術分野別の3カンパニーを設置した。これらのカンパニーは、機能別組織となる。

 トヨタの新体制は、こうしてみると「あれやこれや」で代表的な組織構造を3つまでも混在させようとしている。このような新奇で大胆な組織体制が機能するのか、貢献するのか、大いに注目されるところだ。

 さらにトヨタの場合、特異的な経営要素としてみておかなければならないのは、豊田社長の存在だ。同氏は米国公聴会を契機に「吹っ切れた」(前出・週刊東洋経済記事)と自認しており、外部から言わせると「一皮剥けた」という表現ができる。創業家出身という出自も踏まえて、その求心力を大きく強めてきた。大トヨタを率いるヘッドオフィス機構として今回は4人の副社長を配置し、磐石の体制を敷いたようにみえる。

 新体制をロールアウトしたトヨタは、そして豊田氏はどんな地点まで到達しようとするのか。できるならば「21世紀の松下幸之助」と言われるまでのレベルを目指してほしい。

(この項 終わり)

2016年5月8日日曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(6)

さらに機能別カンパニーまで、社長の求心力とのバランスはどうなる


「組織は戦略に従う」という有名な言葉がある。経営史学者のアルフレッド・チャンドラーが1962年に著した書籍の翻訳タイトルから有名になった。これをもじって、「組織は規模に従う」という傾向を指摘できる。

 初動段階の企業は、その組織形態としては自然発生的に「機能別組織」をとる。業容や規模が拡大していくと事業部別組織を選択することがある。さらにトヨタのように大きくなるとマトリックス型組織に進む、という傾向が観察できる。

 しかし、組織形態はあくまで経営者の選択によるものだから、このステップを必ずしも踏むわけでもない。トヨタを見ても、メーカーとしてのトヨタ自動車工業からトヨタ自動車販売が1950年に分離設立されたのは機能別組織を強化する動きだったが、82年には自工・自販の合併により現在のトヨタとなった。

 そして大トヨタのなかで、豊田章男社長指揮下ですでに3回目となる今回の組織大変更だ。組織の変更が経営者の意思表明だと私は解説しているが、その時々の状況においての対応最適を目指すのなら、組織体制は停滞していてはならない。

(この項 続く)

2016年5月7日土曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(5)

私はビジネスマン時代、米誌「フォーチュン」が毎年選ぶ優れた500社、いわゆるフォーチュン500社のうちの1社、社長時代にあっては別の同様企業や蘭フィリップスなどでマトリックス組織のなかで働いた。

 正直に言って、組織の内側で働く立場になると、マトリックス組織は面倒で不効率に思えた。というのは、レポート先が2つ存在するからだ。そしてとあるビジネス・イシューで見解が分かれると、両者の上層での合意、調整に時間を要することになる。場合によってはどこにも進めない事態に陥る。

 しかし、トヨタのように全世界で33万人もの従業員が働く巨大企業になると、マトリックス組織のように一見複雑な組織形態を採用しないとかえって不効率となり、組織運営そのものが円滑に進まないということは予想できる。

(この項 続く)

2016年5月6日金曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(4)

グルーバル大企業で避けられない複層構造


 さて、トヨタは日本を代表する製造業企業として世界中でビジネスを展開している。その場合、各国でのビジネスは3種類の組織にどのように管掌されるのだろうか。答えは「全部が絡む」ということになる。

 マーケティングあるいは販売という切り口でみると、たとえばある国における小型車のビジネスは小型車というカンパニー、つまりプロダクト別の事業部に統括される。それぞれのモデルについては車種別カンパニーのなかにいるチーフエンジニアがその車の仕様について、また製造や生産においても権限と責任を持つ。

 ところが一方、その特定国をマーケットと見ると、「第1トヨタ」か「第2トヨタ」に分類される。

 このように、ある国でのあるビジネスについて複数の責任組織が介在するのを「マトリックス組織」という。「組み合わせ組織」または「交差組織」と理解すればいい。

(この項 続く)

2016年5月5日木曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(3)

事業部別組織と地域別組織


 2回の体制変更を経ての今回の新体制は、トヨタという巨大企業におけるいくつかの組織軸に沿って構成されているので、外部からは一見して理解しにくい。

 新設されたカンパニーから解説していく。前述した車のタイプごとの4カンパニーは、「事業部別組織」だ。それぞれのカンパニーという名前の事業部には製造子会社も含まれ、チーフエンジニアが複数いる。これは特定の車種について全権限を持つとされる。つまりパッケージ・グッズの会社におけるプロダクト・マネジャーである。

 短中期の新車種開発はもちろん、人事や調達などの機能も各車種別カンパニーが担う。プレジデントは年間60万台から500万台を販売する車メーカーの経営者の役割を果たしていくことになった。

 一方、技術分野ごとの3カンパニーは機能別組織ということになる。今回の新体制では、さらに以前から存した第1トヨタと第2トヨタという市場別組織がある。この2組織は当該地域・国別でのマーケティング上のアプローチに意を尽くすという役割だ。「地域別組織」としておく。

(この項 続く)

2016年5月4日水曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(2)

7カンパニーと第1トヨタ、第2トヨタにはトップとして「プレジデント」(これも法人の社長という意味ではなく社内肩書きである)が置かれた。7カンパニーにはトヨタの専務が、第2トヨタには常務が任命された。第1トヨタのみトヨタ初の外国人副社長としてディディエ・ルロワ氏がルノーから移籍、着任した。

豊田社長、3度目の最大の組織改造


 豊田章男は2009年に社長に就任した。それ以降、大きな組織改造は今回が3回目でもっとも大きい。豊田氏が大胆な組織改造を行うようになったのは、トヨタ製車両の突然の加速問題をめぐり10年2月、米議会の公聴会に召喚されて証言をしてからのことだ。

「転機となったのは公聴会です」(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/4月9日号>より)

 こう自ら認めているように、修羅場くぐりを果たした経営者は、この大企業を自信に満ちて取り回すようになった。11年には取締役を27人から11人に削減し、意思決定の迅速化を図った。13年には第1トヨタ、第2トヨタという世界地域別のビジネスユニット制を導入している。

(この項 続く)

2016年5月3日火曜日

トヨタ、複雑怪奇な組織体制へ異次元改造始動…なぜ機能する?(1)

トヨタ自動車の新組織が4月18日に発足した。今回注目されるのは、同社としては初めて導入されたカンパニー制だ。カンパニーといっても法人という意味ではない。子会社なども取り込んでいる「社内カンパニー」のことである。

 社内カンパニーには2種類あり、「小型車」「乗用車」「商用車」「高級車(レクサス)」という車のタイプごとの4カンパニーと、「先進技術」(自動ブレーキ、自動運転など)、「パワートレーン」(エンジン、トランスミッションなど)、「コネクティッド」(カーナビ、ネット対応など)の技術分野ごとの3カンパニーだ。

 新体制では、上記社内7カンパニーのほかに地域別事業責任主体として「第1トヨタ」(日本、北米、ヨーロッパなど先進国担当)と「第2トヨタ」(中国東南アジア、中南米など新興国担当)が置かれた。

(この項 続く)

2016年5月2日月曜日

(株)松田商工 ゼロから創業60年、成長し続ける秘密…新卒入社の退職者ゼロ(6)

中小企業の生き残り戦略とは


 松田社長にインタビューして感じたことは、数十名規模の会社が堅実に伸びていくには、やはりその規模に適した戦略がある、ということだ。ポイントを集約すると、次のようなことになる。

1.社員を大事にする。会社は社長ひとりでは回せない、育てられない。
2.小さいなりに特色を出す。戦略的には差別化点をつくれ、ということだ。
3.
経営者が経営に絶対的に集中すること。それを見て社員も奮起する。

 松田商工を取材してもうひとつ感じたのは、同族企業における経営陣の確保ということだ。東工建もまた第3工場を保有していた会社も、後継経営者の確保が問題となり、松田商工に後を託した。

 対照的に松田商工は、1代目から3代目までの社長が同族内で順調に承継されてきた。さらに現経営陣を見ると、副社長が社長の実弟、取締役が社長の義理の弟で年代的にそんなに離れていないということもあり「松田3兄弟」による経営が具現化されている。そして拝見したところ、とてもチームワークがよさそうだ。

 これは、日本で99%以上を占める同族企業にとってはうらやましい状況のはずだ。着実な体制で固めている同社の未来は、明るいのではないか。

(この項 終わり)

2016年5月1日日曜日

(株)松田商工 ゼロから創業60年、成長し続ける秘密…新卒入社の退職者ゼロ(5)

社員を大事にして次のステージへ


――社長が社員の人たちに呼びかけているのは、どのようなことでしょうか。
松田氏 大層に聞こえるかもしれませんが、「東日本NO.1の鋼板加工会社になる」ということを呼びかけています。特に、鉄板の「折り曲げ」と「ロール」という技術分野にこだわっていこうと言っています。

――失礼ながら、結構具体的で明確に進んでいらっしゃるのですね。
松田氏 何とかそうしよう、と(笑い)。でも、それを実現してくれるのはお客様と社員たちです。当社のお客様は、取引の歴史も長く、“松田商工の技術力”を信頼してご依頼いただいております。高いご期待に応えていく、やりがいを実感できます。

――現場で拝見したのですが、たとえば鉄板を幅広側の径が1メートル以上もある大きな漏斗状に加工するなどしていました。
松田 はい。手作業加工で、一発勝負で仕上げます。

――本当に匠のわざですね。社員の皆さんもイキイキとされているようにみえます。
松田氏 大卒の新卒採用を5年前から始めました。おかげさまで退職者はゼロです。社員には、安定した生活を送りながら充実した仕事をしてほしい、と願っています。東工建も入れれば、4工場となったので着実に130名体制を実現したい。

――中途採用も進めていくということですか。
松田氏 はい。現場のほうも経験者は大歓迎します。当社で何より匠の技術を向上してもらえれば、それに越したことはありません。

(この項 続く)